この事例の依頼主
60代 男性
長年面倒をみてきたご相談者様のお母様が亡くなられ相続が開始しました。ご相談者様には,弟様と妹様の二人のごきょうだいがおられ,その妹様が49日法要もすまないうちに,遺産分割調停を申し立ててきました。弟様は相続分を早々にご相談者様にお譲りになられたので,事実上,妹様との対決構造となりました。妹様には代理人弁護士が就いており,ご相談者としていかに対応すべきかということで,当職のもとにご相談にいらっしゃいました。遺産としてみるべき財産は,お母様名義の土地しかないのですが,その土地上には,ご相談者様名義の建物が建っています。ご相談者様が二世帯住宅として建てられたものであり,ご相談者様は40年以上もお母様のお世話をしてきました。そのことは妹様もよくご存じの話でした。ご相談者様の話では,「ごきょうだいの仲は決して悪くなかったのに,どうして妹が豹変したのか分からない」と,大変困惑されていました。
まず,当職は心の問題から手をつけようと思いました。当職は「妹様が豹変されたのか,もともとそのようなお気持ちをおもちであったのかは,どれだけ考えても妹様ご本人しか分からないことである。ですから,ご相談者様が悩まれる必要はないのです」と精一杯励ましました。また,調停の戦術としては,「お母様が遺言を遺されていない以上,法律上は法定相続分による分割となってしまう。ただ,この結論は公平に反する。そこで,裁判所が採用するかどうかは分からないが,寄与分や特別受益の持戻し免除も主張しておきましょう」と述べました。ご相談者様の手持ち現金が少ない中でのかなりハードな交渉となりましたが,最終的には妹様側が当方の条件を受諾していただき,無事終結することとなりました。
調停における戦略・戦術もさることながら,もっとも重要なのはご相談者様の中長期的な将来全般の利益であると思います。とくに悩ましいのは,「遺産となるべき財産はあるけれど,現金がない」という状況のときです。たしかに,財産を処分してしまえば現金が発生します。しかし,それではご相談者の中長期的な生活が維持できない。そのように事態は,本件に限らず,遺産分割事件においては,常につきまとうものといえます。ご相談者の利益を最大限に実現するためには,裁判所を味方につけるのはもちろん,紛争の相手方をも味方につけることが必要な場面が多々あります。本件は,まさにそれがうまくハマった事案でした。