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いつのまにか「飛ぶボール」になっていた!野球選手は「年俸契約」を変更できるか?
2013年06月20日 14時22分

鳴り物入りで導入されたプロ野球の「統一球」。去年までは「飛ばないボール」だったのが、極秘裏に「飛ぶボール」に変更されていた。そんな事実が判明し、大騒動になっている。

日本野球機構(NPB)は今シーズンから、ボールの反発力が昨シーズンよりも高くなるよう調整していたにもかかわらず、その事実を明らかにせず、「ボールに変更はない」と事実と異なる説明をしていたのだ。NPBは昨年10月に飛びやすく調整した統一球の製造をメーカーに発注したが、変更の事実は公表しないよう口止めし、各球団や選手への報告もしていなかった。

ところが、今季は1試合あたりのホームラン数が昨年の同時期に比べ1.5倍と急増し、「ボールが変わったのでは」という疑問の声が噴出。NPBの加藤良三コミッショナーが6月11日にようやく、事実を認めて謝罪したが、ファンの怒りはおさまっていない。

選手からも憤りの声があがっているが、その理由は感情的なものだけではない。個人成績と年俸が連動する出来高契約をむすんでいる選手にとっては、ボールの変更は「収入」に直結する問題といえるからだ。特に投手は「飛ぶボール」への変更によって、防御率が全体的に悪化している。

契約の前提にこのような重大な変更があったにもかかわらず、それを知らされていなかったような場合、選手は契約内容を変更することができるだろうか。また、ボールの変更により成績が落ちた場合、NPBに対して損害賠償を請求できるのだろうか。野球に造詣の深い大久保誠弁護士に聞いた。

●「事情変更の原則」の適用は微妙

「契約内容の変更が認められるとすれば、それは『事情変更の原則』が適用された場合です」

――それは、どんな原則か。

「ざっくりいうと、その契約の前提となっていたこと(基礎事情)が根底から覆されるような変化が、契約後に起きた場合に、契約内容を変更したり無かったことにできるという話です。この原則が適用されるためには、次の4つの要件が全て満たされていなければなりません。詳しくみていきましょう。

(1)契約が成立したときの、基礎事情に重大な変更が生じたこと(ただし個人的な事情は除く)。

ボールの品質変更は重大ですから、当てはまりそうです。

(2)その事情変更について、契約の当事者双方が、事前に見通せなかったこと。

秘密だったということで、当てはまりそうです。

(3)事情変更が起きた理由について、契約をした当事者たちに責任がないこと。

選手や球団に責任はないので、当てはまるでしょう。

(4)契約内容の維持が著しく不公平になったこと。

ただし、この(4)については、そこまで言えるかどうか、問題です。つまり、(1)~(3)は良くても、(4)がネックとなるので、契約内容の変更が認められるかどうかは、微妙と言わざるをえません」

●「自分の成績が落ちたのは、ボールが変わったせい」と証明するのは難しい

「では次に、NPBに対して、損害賠償請求ができるかどうかを考えてみましょう。NPBが勝手にボールを変更したせいで、自分の権利が侵害されたと証明できれば、不法行為に基づく損害賠償請求ができます。しかし、それを立証するのは、困難でしょう。

ある投手がNPBによる権利侵害を主張するというのは、言い換えれば、ボールが変わっていなければ、もっと良い成績が出せたと証明する必要があるということです。単に統計的・傾向的にホームランを打たれる割合が多くなったというだけでは、おそらく裁判所は権利侵害を認めてくれません」

――どう証明すればいいのか。

「たとえば、『昨年はホームランにされなかったコース・高さと全く同じところに投球したのに、ホームランを打たれた』と主張したいとします。しかし、それを証明するためには、本当に同じところに投球できていることや、その投球の球速(初速・終速とも)や球種が一緒だったことを示さなければなりません。それは、全投球のビデオなどで可能と言えるのでしょうか。

また、もしそこをクリアしたとしても、打者が異なるとすれば、その打者の技量差も考慮しなければなりません。そういった難しい問題をどうクリアしていくのか・・・・。そう考えると、損害賠償が簡単に認められるとは言いがたいのではないでしょうか」

なるほど大久保弁護士によると、今回のケースは、純粋な法律問題として「誰もが納得いく解決」を実現するのは、なかなか難しそうだ。NPB、球団、一人ひとりの選手にとっても、いちいち裁判をしなければならない事態は避けたいだろう。ここは原因を作った側が、自ら何らかの「決着」をつけ、沈静化を図るべきなのではないか。

(弁護士ドットコムニュース)

鳴り物入りで導入されたプロ野球の「統一球」。去年までは「飛ばないボール」だったのが、極秘裏に「飛ぶボール」に変更されていた。そんな事実が判明し、大騒動になっている。

日本野球機構(NPB)は今シーズンから、ボールの反発力が昨シーズンよりも高くなるよう調整していたにもかかわらず、その事実を明らかにせず、「ボールに変更はない」と事実と異なる説明をしていたのだ。NPBは昨年10月に飛びやすく調整した統一球の製造をメーカーに発注したが、変更の事実は公表しないよう口止めし、各球団や選手への報告もしていなかった。

ところが、今季は1試合あたりのホームラン数が昨年の同時期に比べ1.5倍と急増し、「ボールが変わったのでは」という疑問の声が噴出。NPBの加藤良三コミッショナーが6月11日にようやく、事実を認めて謝罪したが、ファンの怒りはおさまっていない。

選手からも憤りの声があがっているが、その理由は感情的なものだけではない。個人成績と年俸が連動する出来高契約をむすんでいる選手にとっては、ボールの変更は「収入」に直結する問題といえるからだ。特に投手は「飛ぶボール」への変更によって、防御率が全体的に悪化している。

契約の前提にこのような重大な変更があったにもかかわらず、それを知らされていなかったような場合、選手は契約内容を変更することができるだろうか。また、ボールの変更により成績が落ちた場合、NPBに対して損害賠償を請求できるのだろうか。野球に造詣の深い大久保誠弁護士に聞いた。

●「事情変更の原則」の適用は微妙

「契約内容の変更が認められるとすれば、それは『事情変更の原則』が適用された場合です」

――それは、どんな原則か。

「ざっくりいうと、その契約の前提となっていたこと(基礎事情)が根底から覆されるような変化が、契約後に起きた場合に、契約内容を変更したり無かったことにできるという話です。この原則が適用されるためには、次の4つの要件が全て満たされていなければなりません。詳しくみていきましょう。

(1)契約が成立したときの、基礎事情に重大な変更が生じたこと(ただし個人的な事情は除く)。

ボールの品質変更は重大ですから、当てはまりそうです。

(2)その事情変更について、契約の当事者双方が、事前に見通せなかったこと。

秘密だったということで、当てはまりそうです。

(3)事情変更が起きた理由について、契約をした当事者たちに責任がないこと。

選手や球団に責任はないので、当てはまるでしょう。

(4)契約内容の維持が著しく不公平になったこと。

ただし、この(4)については、そこまで言えるかどうか、問題です。つまり、(1)~(3)は良くても、(4)がネックとなるので、契約内容の変更が認められるかどうかは、微妙と言わざるをえません」

●「自分の成績が落ちたのは、ボールが変わったせい」と証明するのは難しい

「では次に、NPBに対して、損害賠償請求ができるかどうかを考えてみましょう。NPBが勝手にボールを変更したせいで、自分の権利が侵害されたと証明できれば、不法行為に基づく損害賠償請求ができます。しかし、それを立証するのは、困難でしょう。

ある投手がNPBによる権利侵害を主張するというのは、言い換えれば、ボールが変わっていなければ、もっと良い成績が出せたと証明する必要があるということです。単に統計的・傾向的にホームランを打たれる割合が多くなったというだけでは、おそらく裁判所は権利侵害を認めてくれません」

――どう証明すればいいのか。

「たとえば、『昨年はホームランにされなかったコース・高さと全く同じところに投球したのに、ホームランを打たれた』と主張したいとします。しかし、それを証明するためには、本当に同じところに投球できていることや、その投球の球速(初速・終速とも)や球種が一緒だったことを示さなければなりません。それは、全投球のビデオなどで可能と言えるのでしょうか。

また、もしそこをクリアしたとしても、打者が異なるとすれば、その打者の技量差も考慮しなければなりません。そういった難しい問題をどうクリアしていくのか・・・・。そう考えると、損害賠償が簡単に認められるとは言いがたいのではないでしょうか」

なるほど大久保弁護士によると、今回のケースは、純粋な法律問題として「誰もが納得いく解決」を実現するのは、なかなか難しそうだ。NPB、球団、一人ひとりの選手にとっても、いちいち裁判をしなければならない事態は避けたいだろう。ここは原因を作った側が、自ら何らかの「決着」をつけ、沈静化を図るべきなのではないか。

(弁護士ドットコムニュース)

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