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セクハラ加害者は「自分が権力者であること」に無自覚…被害を繰り返さないための「予防策」とは?
2023年05月10日 10時02分
#セクハラ #性暴力

演劇界のハラスメント撲滅に取り組んできた馬奈木厳太郎弁護士が、業界の重鎮である立場を利用し、意に反する性行為をさせたとして、依頼人だった女性から今年3月に訴えられた。

この提訴に先立って、馬奈木弁護士はハラスメントがあったことを認める謝罪文を公表した。その中で馬奈木弁護士は、原告女性も自分に好意を寄せていると思い込むなど、自身に「認知の歪み」があったと述べている。

圧倒的な「権力の差」のある関係の中で起きるセクハラや性暴力は、なぜ繰り返されるのか。性暴力被害にくわしい中山純子弁護士に聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

演劇界のハラスメント撲滅に取り組んできた馬奈木厳太郎弁護士が、業界の重鎮である立場を利用し、意に反する性行為をさせたとして、依頼人だった女性から今年3月に訴えられた。

この提訴に先立って、馬奈木弁護士はハラスメントがあったことを認める謝罪文を公表した。その中で馬奈木弁護士は、原告女性も自分に好意を寄せていると思い込むなど、自身に「認知の歪み」があったと述べている。

圧倒的な「権力の差」のある関係の中で起きるセクハラや性暴力は、なぜ繰り返されるのか。性暴力被害にくわしい中山純子弁護士に聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●被害者は「断っている」 加害者は「受け止めない」

——社会的地位が高く、その業界で権力を持っている男性が、自分より弱い立場にある若い女性に対して性加害をおこなったり、ハラスメントをしたりするケースが後を絶ちません。

今回のケースで、原告女性は、自分の訴訟の代理人弁護士で、訴訟の進行にとても大きな影響力を持っている人物から「被害」を受けました。

代理人弁護士との関係性を崩してしまったら、訴訟にマイナスの影響が生じる可能性が高いと考えられる中で、繰り返し性行為を要求されて、断りきれない状況にまで追い込まれてしまったようです。

こうした被害が起きてしまう一番大きな要因は、「認知の歪み」に加えて、ハラスメントをする側が、自分が優越的な地位にあるという自覚がないことです。

つまり、相手が断った場合、相手に不利益を及ぼすこともありえる立場にいるということに自覚がないことです。悪質な場合は、「自覚がないふり」をしてることもあるのかもしれません。

——告発した被害者がよく言われるのは、「断ればよかったのに」という言葉です。なぜ、被害者は断れずに被害を受けてしまうのでしょうか。

被害者の方はよくその言葉を言われますが、みなさん、何らかの形で断っていると思います。

こうしたケースの多くは、社会生活を営む上での関係性が先にあり、その関係性にマイナスが生じないよう、被害者はできるだけ穏やかに、相手の機嫌を損ねないよう、常識的な態度でお断りをしています。

ただ、加害者はそれを「断られている」というふうに受け止めない。相手が本気で嫌がっているとは思いません。自分の都合のいいように解釈しているために、被害が起きてしまいます。

●「同意する」の意味を社会に浸透させる必要性

——被害者からすれば、権力のある立場にいる加害者に狙われたら断っても断りきれないということが起きてしまうわけですね…。

「嫌だと言われてないから、明確に拒絶されていない」という意識が、加害者にあるという問題を共有していくことが大事だと思います。「嫌だったら断ればいい」とか、「嫌よ嫌よも好きのうち」とか言われがちですが、実はそうではないということですね。

「同意する」とはどういうことなのか、社会に浸透させていかなければと思います。

——上下関係がある中でのハラスメントが争われた訴訟で、被害者が加害者に送ったメッセージやメールが証拠として使われることがあります。これまで見た事例では、加害者の機嫌を損ねないような文面が多く、「被害者も加害者に好意を持っていた」と裁判所に判断されてしまうことがありました。

そうしたところに、上下関係のある中での性暴力の難しさがあります。本来であれば、相手の機嫌を損ねるわけにはいかないから、相手に好意があるような文面になってしまったにもかかわらず、裁判所はそこに書いてある通りにしか受け取らないことがあります。

特に両者が成人だった場合は、基本的には対等な関係であるというスタートラインに立ってしまう。背景にある「権力の差」に対する認識がまだまだ足りないのだと思います。

私自身をふりかえっても、ロースクールのカリキュラムや司法修習の中で、刑事弁護の視点は存分に教わりましたが、性暴力の被害の実態について教わる機会はほとんどありませんでした。興味を持っていないと考える機会も少ないです。

——法曹界が今後、意識を変えていかなければいけないということですね。

●性暴力の「手段」としてのグルーミング

——2022年度の法制審議会で、刑法改正の要綱案がまとまりました。その中で、16歳未満の子どもに対する「グルーミング罪」が新たに盛り込まれました。ここから何か変わっていくのでしょうか。

今回の法改正では、グルーミングは、いわゆる「手なずけ行為」と言われるものよりももっと狭い範囲になっています。

たとえば、「勉強を見てあげるよ」とか「何か悩みはないの?」と言って近づくところから始まって、2人きりになり、肩を触ったり、頭をなでたりする行為が、徐々に性的になっていくのが、従来の手なづけ行為です。しかし、今回はそのあたりが対象になっていません。

性的な目的のグルーミングが、社会でも指摘されるようになってきたのは、ここ数年だと思います。グルーミングが、逃れられない性行為の強要につながっていくんだという認識は、まだまだ浸透していないと思います。

性的な接触を持つことと、それ以外の仕事での関係や交友関係とはまったく違うということ。それから、性的な接触を持つには相手の意思をきちんと確認しなければならないということ。こうした意識を広めていく必要があります。

——大人になった被害者の方たちが、幼い頃や若い頃から、加害者によるグルーミングを受けていたと訴えることが少なくありません。そうした中で、被害者が「被害者は何か自分にメリットがあるから、加害者に従っただろう」という心無い言葉をかけられることがあります。

未成年のお子さんが被害に遭う場合、グルーミングによって「自分は特別な子だ」と認められたうれしさがあって、被害を受けている当時はうれしかったり、自分は受け入れていたと錯覚することがあります。

それが成長するにつれて、「あれは脆弱者であることを利用されたんだ」ということに気づくことにつながっていくわけです。しかし、本来は性的な行為と引き換えにメリットを与えること自体、被害者を人格のある人間として尊重していませんよね。

ですので、「性的な行為と引き換えにメリットがあったんだからいいでしょ」と言えるような軽さではないと思っています。

●「相手のNO」を受け入れる教育を

——これまで取材した事例では、加害者は若い頃から加害行為を繰り返している人が見られます。加害している自覚がないから繰り返してしまうのだろうなと思いました。

難しい問題ですが、本当に幼い頃から、「プライベートゾーンには、誰であっても勝手に触っていいものではない」という基本的なところを教える必要があると思います。

そのルールを簡単に破ることが「いかに相手を深く傷つけるのか」ということも、あわせて教えてもらいたいと思っています。一昔前なら、性暴力を受けても「犬に噛まれたと思え」と言われていたような社会でしたが、そうではないんだということを知ってほしいです。

——こうしたセクハラや性暴力を防ぐために、私たちにできることはあるのでしょうか。

これまで社会は常に加害者の目線でした。被害者から見える景色はずっと認知されてこなくて、フラワーデモ(2019年4月に始まった性暴力の根絶を目指す社会運動)の頃から少しずつ伝わり始めたと思います。

被害者目線に立つことはとても大事です。たとえば今回の刑法改正で、「強制性交等罪」が「不同意性交罪」となります。「不同意」という言葉が入った意味は大きいと思っています。

これまでの裁判では、「同意がない」ということは認定されながらも、「抵抗が足りない」ということで、無罪になったケースが散見されてきましたので、被害者側からはずっと意見を伝えてきた部分でした。

——被害を繰り返さないために、どのような予防策があるのでしょうか。

被害に遭った方たちの共通の思いとして、「二度と同じような被害が繰り返されてほしくない」ということがあると思います。そのためにも、加害の側に立ちやすい人の認識を変えていかなければならないと思います。

一朝一夕では実現できないと思いますが、最善の予防策は、幼い頃からの教育なのかなと思います。相手の「NO」を尊重するという教育です。自分の考えを述べて、相手の考えが「NO」だったとしても、お互いを尊重して受け入れる。そういう教育は、性教育に限らずあまり機会がありません。

被害には、上限関係のある中で、性的な行為を要求されて、受け入れざるを得ない状況があります。何度断っても、加害者に受け入れてもらえず、無力感に襲われて最後は諦めてしまう。そうした事態に陥らないためには、相手の「NO」を受け入れるという教育が大事だと考えています。

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