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台湾「同性婚」法制化へ…世論を動かした、ある中学生の悲劇的な死
2017年06月10日 09時16分

台湾で2019年5月までに同性婚が法制化される。最高司法機関「大法官会議」が5月24日、同性婚を認めない民法の規定は違憲だと判断したからだ。法制化はアジアでは初めて。

きっかけになったのは、同性愛者の祁家威(き・かい)さん(59歳)の訴え。2013年、台北市に同性婚を認めてもらえず、裁判でも敗訴したため、大法官会議に判断を求めていた。この祁さん、なんと台湾民主化前の1986年から、30年以上にわたって同性婚の法制化を目指し、活動してきたという。

「儒教の伝統がある台湾は、もともと日本以上に性的少数者に対する偏見が厳しい。祁さんも当時は、同性愛者のコミュニティーの中でも浮いた存在だったそうです」

そう話すのは、台湾法にくわしい明治大学の鈴木賢教授。そんな台湾社会が変わり、祁さんの活動に多くの賛同者が集まるようになったきっかけの1つに、ある少年の悲劇的な死があるという――。

台湾で2019年5月までに同性婚が法制化される。最高司法機関「大法官会議」が5月24日、同性婚を認めない民法の規定は違憲だと判断したからだ。法制化はアジアでは初めて。

きっかけになったのは、同性愛者の祁家威(き・かい)さん(59歳)の訴え。2013年、台北市に同性婚を認めてもらえず、裁判でも敗訴したため、大法官会議に判断を求めていた。この祁さん、なんと台湾民主化前の1986年から、30年以上にわたって同性婚の法制化を目指し、活動してきたという。

「儒教の伝統がある台湾は、もともと日本以上に性的少数者に対する偏見が厳しい。祁さんも当時は、同性愛者のコミュニティーの中でも浮いた存在だったそうです」

そう話すのは、台湾法にくわしい明治大学の鈴木賢教授。そんな台湾社会が変わり、祁さんの活動に多くの賛同者が集まるようになったきっかけの1つに、ある少年の悲劇的な死があるという――。

●世論を巻き込んだ「葉永鋕事件」、校長らが業務上過失致死罪で有罪に

2000年4月20日、台湾南部の中学校のトイレで、当時中学3年生の男子生徒・葉永鋕(よう・えいし)さんが血だらけになって倒れているのが見つかった。葉さんは翌日、病院で亡くなった。

「トランスジェンダーだったかは、はっきりと分かっていませんが、葉さんは『娘娘腔(女っぽい話ぶり)』を理由に、トイレでズボンを脱がされるなどのいじめに遭っていました。そのため、授業中でないとトイレに行けなくなっていたのです」

「事故と見られていますが、くわしい経緯は今も分かっていません。学校側がすぐにトイレを掃除して、検証できなくしてしまったからです。学校側はいじめのことを知りながら、具体的な対策もとっていなかったため、世論の強い非難にさらされました」

鈴木教授によると、90年代以降、台湾では、同性愛を描いた「同志文学」と呼ばれる作品群などが浸透し、2000年代に入り、性的マイノリティーの権利獲得に向けた活動が活発になっていったという。たとえば、台北市で行われるアジア最大規模のLGBTパレードが始まったのも、2003年からだ。

「こうした流れの中で、葉さんの事件はメディアで大きく取り上げられ、セクシャリティーを理由に亡くなったり、苦しんだりする人を無くそうという気運が高まっていきました。刑事裁判になり、校長ら3人が業務上過失致死罪で有罪になるのですが、世論が大きく影響したと考えられています」

葉さんの死をきっかけに2004年、台湾の法律で初めて「性的指向(どの性別の人を好きになるか)」について明文規定を置いた性別教育平等法が制定される。学校教育における性的指向の尊重や差別禁止などを謳ったものだ。

「教育は国のあり方に大きく影響する。台湾では、すでに性別教育平等法のもとで教育を受けた子どもたちが、有権者になっている。一方、日本は今年、学習指導要領の改訂でLGBTの記述を入れることを見送りました。次の改訂は約10年も後です」

その後、台湾では性的指向による就職差別が禁止され、性転換後の戸籍変更についての手続きも定められるなど、制度が整っていく。

●日本の同性婚をめぐる議論に与える影響は?

今回、台湾の大法官会議は、同性婚を認めないのは平等権に反することや、結婚と生殖は別物であることなどを明言した。「判断自体は極めて理性的でまっとうなものと言えます。しかし、日本で『政治』に同性婚の法制化を求めるのは難しいでしょう」と鈴木教授。

「同性婚の法制化を公約にしていた台湾の蔡英文総統でさえ、反対派が多く立法化に踏み切れなかった。大法官会議の判断で、ようやく動かざるを得なくなったという流れです。日本の政治状況では、なおさら望み薄だと考えられます」

そこで重要になるのが台湾同様、司法の判断だという。

「欧米ではLGBTの人が暴力被害に遭うことが多い。たとえば、昨年アメリカであったゲイ・ナイトクラブ乱射事件などがそうで、被害が可視化されやすい傾向にあります。一方、台湾や日本ではいじめが多く、裁判にでもならないと問題が公にならない。その結果、差別の実態が理解されてきませんでした」

「葉さんや祁さんのように裁判になれば、多くの人が問題を知ることになりますし、司法の判断で性的少数者の権利拡大や同性婚法制化の道筋が見えてくる可能性があります」

鈴木教授は重要性が高いものとして、現在進行形の3つの事案をあげる。1つ目は、一橋大の法科大学院生が、ゲイであることを同級生に暴露(アウティング)された末、転落死した事件の裁判。アウティングの違法性が争点だ。

2つ目は、20年以上連れ添った日本人パートナーがいる台湾人男性が、不法滞在を理由に退去強制処分を受けたケース。処分の取り消しをめぐり、東京地裁で争われている。結婚した異性であれば、外国人でも滞在が認められるのが通例で、同性婚のない国同士の同性カップルの場合をどう判断するかが注目される。

3つ目は、パートナーを殺害された名古屋市の男性による、犯罪被害者給付金の申請。法律上、同性のパートナーは遺族や配偶者に当たらないと判断される可能性があり、申請が却下されれば、裁判で争われる可能性がある。

「これらの事件がどう判断されるか注目しています。また、渋谷区や札幌市など6自治体が、独自に同性カップルを認証するパートナーシップ制度を導入しています。こうした制度の広がりも、立法化に対するプレッシャーになるでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

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